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(トラック運送業 運転手 ドライバー 判決(裁判例、判例)
トラック運送業の裁判でよく争われるのが、「歩合給制度」と「固定残業制度」です。歩合給については、どうやら都市伝説みたいなものがまかり通っている感じがします。固定残業については、トラックドライバーに限らず多くの業種でも採用されている賃金制度ですね。
歩合給にまつわる都市伝説ですが、ザックリと2つに分類できると思います。
歩合給を支払っていれば残業代の支払いは不要である
「歩合給のなかに残業代が含まれている!」という主張ですね。これに関しては、労働基準法施行規則第19条6号にて歩合給に関する計算方法が規定されています。一部歩合給、完全歩合給でも、時間外労働が発生すれば、その時間について残業代を支払う必要があります。歩合給における固定残業制度の主張も「明確区分性」の観点から厳しいでしょう。そもそもこの案件は、労働時間管理すらしていないケースが多く、無理があります。
歩合給から残業代を差し引いて配送効率を高める賃金制度は合理的で有効である
「ダラダラ残業防止」、「配送効率を高める」。
この賃金制度を採用している貨物運送業者は、上記の理由が大きいのではないでしょうか。業務遂行上の裁量が多いタクシー運転手であれば、心情的には理解できるところもあります。集客については、タクシードライバーの工夫の余地があるからです。
しかしながら、貨物を運送するトラック運転手には少し無理があるのかなと考えます。貨物運送は運行管理者が作成した運行計画に基づいて、荷主に物品を配送するという管理・計画性の高い業務なので、タクシー運転手ほどの自由裁量がないからです。
この件で最高裁まで争われた事件はタクシー会社です。いわゆる「国際自動車事件」ですね。3つの事件の判決も揺らぎました。最終的は、会社が敗訴しましたが最高裁判決までに約8年を費やしています。
いっぽう、類似の給与制度で会社が勝訴したのが、いわゆる「トールエクスプレスジャパン事件」で、貨物を配送するトラック運送会社です。地裁、高裁ともに会社が勝訴して、最高裁が上告を棄却しましたので、大阪高裁判決が確定しました。国際自動車事件の賃金制度と外形上は似ていますが、「明確区分性」と「業務遂行の裁量」が判決のポイントになったのではないかと考えます。
このコンテンツの一部(テックジャパン事件、アクティリンク事件、ウィンザーホテル事件、三和交通事件、北海道タクシー事件)の出典元として、株式会社ビジネスリンク代表取締役 西川幸孝氏の「賃金制度コンサルティング講座」の資料を一部使用又は加筆修正しております。(文責:赤井孝文)
【目次】下記クリックすればジャンプします
タクシー運転手が、歩合給を計算するに当たって、(売上高 × 一定割合)の金額から時間外労働に相当する金額を控除する給与規程上の規定が無効であり、会社は、控除された時間外労働に相当する金額の賃金の支払義務を負うと主張して、未払い賃金の支払いを請求した事案
「割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかは明らかでないから、本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできない」と判示した。要するに、「明確区分性」を欠くということで、有効な割増賃金の支払いでない(無効)とした。会社が敗訴しました。
「残業したら歩合給が減額されるのは無効」だとタクシー会社が訴えられた裁判です。控訴審(高裁)では会社が勝訴したのですが、最高裁では原審を破棄し、割増賃⾦額算定のため差し戻しました。国際自動車事件の3件事件とも地裁、高裁では原告が劣勢でしたが、最高裁では原告の主張が支持されました。
職業裁判官でも判決が逆転するほどの意義深い裁判でした。これで、このスキームの賃金制度の運用は非常に難しくなると思います。というよりは、労働基準法37条違反の状態なので、単なる民事上の問題だけではなく、労働基準監督署の案件、つまり刑事上の問題も意識する必要があるということです。
国際自動車の月例賃金の計算式です。
月例賃金= 固定給(基本給+服務手当+交通費) + 割増金(残業手当+深夜手当+公出手当) + 歩合給(歩合給①+歩合給②) |
次に、歩合給①と歩合給②の計算式です。
歩合給①= 対象額A-{割増金(深夜手当、残業手当及び公出手当の合計)+交通費} ↓↓ 対象額A=(所定内税抜揚高-所定内基礎控除額)×0.53 +(公出税抜揚高-公出基礎控除額)×0.62 歩合給②=(所定内税抜揚高-341,000円)×0.05 |
上記の与えられた条件で、連立方程式を解いて月例賃金を算出してみましょう。
月例賃金 = 基本給+服務手当
+(所定内税抜揚高-所定内基礎控除額)×0.53←(所定内に挙げた歩合給)
+(公出税抜揚高-公出基礎控除額)×0.62←(公休出勤日に挙げた歩合給)
+(所定内税抜揚高-341,000円)×0.05 |
狐につままれたよう感じですね!
∴(故に)
月例賃金 = 基本給 + 服務手当 + 歩合給(所定内出来高+公休出勤日出来高) |
ということになります。
お気づきでしょうか。「割増金」という時間の概念がなくなっていますよね。
集配業務に従事するトラック運転手が、歩合給の計算に当たり、出来高により算出される額(賃金対象額)から時間外手当に相当する額を控除しているため、労働基準法37条所定の割増賃金の一部が未払いであると主張して、未払い残業代の支払いを請求した事案
「時間外労働等が増加しても賃金総額が変わらないという現象自体は、いわゆる固定残業代が有効と認められる場合にも同様に生ずることであるから、それだけで本件賃金制度における能率手当(賃金対象額から時間外手当に相当する額を控除)が労働基準法37条の趣旨を逸脱するものであると評価することはできない」と判示した。かなり端折っておりますが、「明確区分性」、「対価性」を肯定し、会社が勝訴した。
本来の歩合給から残業代を控除するスキームは国際自動車事件と外形上は似ている賃金制度ですが、規程上は独自の考え方があるようです。
トールエクスプレスジャパンの月例賃金の計算式です。
月例賃金= 基準内給与(職務給+勤続年数手当+現業職地域手当+能率手当)+ |
時間外手当Aは、固定給に対する割増賃金ですね
時間外手当A={基準内給与(能率手当除く)÷ 平均所定労働時間}× {(1.25×時間外労働時間)+(1.35×法定休日労働時間)+(0.25×深夜労働時間)} |
時間外手当Bは、歩合給に対する割増賃金ですね
時間外手当B={能率手当 ÷ 総労働時間}× {(1.25×時間外労働時間)+(1.35×法定休日労働時間)+(0.25×深夜労働時間)} |
ここまでは、よく見られる規定ですよね。
能率手当が少しややこしくなります。
●能率手当の定義
集配した業務内容(取り扱い重量、件数等)に基づき算出された「賃金対象額」と称する歩合給が「時間外手当A」の額を上回る場合に支給する。
・・・能率手当は、トラック運輸業界において一般的な方法で計算された本来の歩合給を「賃金対象額」と称し、それから固定給に対する割増賃金(時間外手当A)を控除したものです。
●能率手当の計算式
能率手当 =(賃金対象額 - 時間外手当A)× α
α=(総労働時間)÷{総労働時間+(時間外労働時間×0.25)+ |
国際自動車の規定よりはシンプルです。ポイントは、能率手当にあった訳ですね。
・・・時間外労働等が一切なければ、「能率手当」=「賃金対象額」になり、本来の歩合給が全額支給されるスキームですね。「効率よく集配して、残業時間を抑えれば歩合給は減りませんよ!」という会社のメッセージが、この能率手当に表れている思います。
・・・会社勝訴の要因として以下、考えられます。
① | 業務の習熟度が向上すれば、集配業務の時間を短縮することが可能 |
② | 集配業務の遂行にあたり、一定程度の裁量があった |
③ | (固定給+残業代)が実収賃金の6割を超え、労基法27条を遵守している |
④ | 過半数労働組合との協議・調整を経て導入されている |
⑤ | 明確区分性(通常の労働時間の賃金にあたる部分と、労働基準法37条に定める割増賃金が、明確に区分して支給されている) |
⑥ | 追加の業務申し出が可能、顧客獲得 |
基本給に一定時間数の割増賃金が含まれているとする会社側の主張を否定。
通常の労働に対する賃金部分と、時間外労働に対する割増賃金部分を明確に区分することができないことがその理由。
便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが、その場合は、その旨が雇用契約上も明確にされていなければならないと同時に支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならないであろう。
さらには10時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解すべきと思われる。
本件の場合、そのようなあらかじめの合意も支給実態も認められない。
営業手当を割増賃金30時間相当分として支払う旨の賃金規定があった事例。営業手当のように、他の手当を名目としたいわゆる定額残業代の支払が許されるためには、以下の2つの取扱いが必要と判示。
全く精算していない場合、定額残業代は無効と判断。
この場合、営業手当も基準内給与として扱われ、残業単価も増額し、さらに別途、時間外労働に応じた残業代を支払う必要がある。
運用面がルーズであると、そもそも定額残業代であると定義した営業手当自体が単なる手当の上乗せになってしまうと言う典型的なケースである。
多くの中小企業でも、実態は、ほとんどこのケースに近いと思われる。
95時間分の定額残業代をそのまま認めず、45時間(36協定の上限時間)を限度として有効とした。
職務手当が95時間分の時間外賃金であると解釈すると、本件職務手当の受給を合意したXは95時間の時間外労働義務を負うことになるものと解されるが、このような長時間の時間外労働を義務付けることは、使用者の業務運営に配慮しながらも労働者の生活と仕事を調和させようとする労基法36条の規定を無意味なものとするばかりでなく、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するおそれさえある。
タクシー乗務員の割増賃金支給をめぐる争い。
この会社の賃金制度は、基本給、歩合給、割増賃金の構成で、歩合給は営業収入から足切額を控除したものに歩合率54%を掛けて求める。
足切額は基本給と割増賃金の合計額を歩合率54%で除すものになっていたため、結果的に、受け取る賃金は営業収入に歩合率54%を掛けたものになってしまうという内容。
賃金=基本給+〔営業収入-(基本給+割増賃金)÷54%〕×54%+割増賃金
=営業収入×54%
裁判所は、この賃金制度は、実態としては歩合給100%のしくみであり、形式的には割増賃金が支払われていたとしても、実質的には賃金の名目の組み替えに過ぎないとして、完全歩合給制の場合の計算方法による「6号」適用による新たな割増賃金の支払いを認めた。
総支給額を歩合計算で決めておいて、それを形式的に基本給や各種手当、割増賃金などに割り振っていく方法は、トラック運送業においても多く見られる方法である。
北海道において、弁護士グループが、労働組合と連携して、タクシー労働者の権利を、タクシー会社との交渉、法的手続(労働審判、仮処分、訴訟)によって守る活動をしている。
上記の三和交通事件(札幌地裁 平成23年7月25日)も、この弁護団が支援活動を行っている。
その他多くのタクシー会社との訴訟において、勝訴または和解が成立している。トラック運送業のトラックドライバーも、タクシー労働者と基本的に賃金が決定する仕組み(賃金制度)は同じである。他業界ではあるが、判決の内容を学ぶ価値は十分あると思われる。
固定(定額)残業代方式を採用した場合、強行法規(労働基準監督署)はクリアできても、民事的なリスク(裁判における争い)は残る。
否認リスクを100%排除することは、不可能であるが、上記3つを意識した
を行っていれば、否認リスクの低減は確実に期待できるものであると確信しています。
【中国地方】-山口県、広島県、岡山県、島根県、鳥取県
【九州地方】-福岡県、大分県、熊本県、長崎県、佐賀県、鹿児島県、宮崎県、沖縄県
【四国地方】-愛媛県、香川県、高知県、徳島県
※ただし、下記の業務は全国対応が可能です。
【労働トラブル対応・解決業務】
【トラック運送業の賃金制度】
【就業規則の作成・変更・見直し】
【労務監査(M&A合併を含む)】