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「たかが36協定、されど36協定」
社会保険労務士業務を平成時代から20数年にわたり携わってきた率直な感想です。経営者の認識が変わったきっかけは、肌感覚でいうと2019年4月以降のいわゆる働き方改革関連法の施行がきっかけでしょうか。
時間外労働の上限規制により、会社は様々な面で対応を迫られました。その中の一つが「36協定」です。手続き面、運用面ともにその複雑さが格段に増しています。トラック運送業においては、さらに二元管理が求められるため、正しい理解が必要となります。
この背景には、2024年4月1日からトラック運送業界における労働時間と拘束時間の上限規制が厳格化し、新しい36協定届書式が導入されるという事実があります。これにより、労働者の過重労働防止と健康保護が図られますが、同時に労働力不足や運営コストの増加といった課題が浮上します。経営者は勤怠管理、給与計算、ドライバーの教育、健康確保措置など、適切な対応が求められます。
また、36協定様式の変更は、労働条件の透明性と信頼性を高める一方で、内容や手続きの複雑化をもたらします。経営者は、新しい書式に準じた合意形成、届出の義務を果たし、36協定の遵守状況とドライバーの意見を確認する必要があります。これらの変更は特に中小トラック運送業において適応することが鍵となります。
法改正前までは誤解を恐れずに言わせて頂ければ、「36協定は形式的なものに過ぎず、労働基準監督署に届け出たら終わり」という認識の経営者が多かったのではないでしょうか。
結果、36協定の内容(時間数)に即していれば問題ないと考えられがちでしたが、残念ながら、そういうトラック運送業、特に中小企業では少なくなかったのが現状です。
上限規制の適用以降(法改正後)は、36協定の法的な重要性が格段に高まります。それは、形式的から運用重視への変化を意味します。運用とは残業時間の管理のことです。ドライバー職以外の職種(事務、運行管理者、配車係、整備職、倉庫係)は、2019年4月から上限規制の適用を受けていますから、特段新しいことに取り組む必要はありません。
しかし、運転手職の36協定の運用は大きく変わります。これまでは一般条項のみでしたが、特別条項が新たに追加されました。これは、特別条項付36協定であれば、上限規制前までのレベルと迄はいかないものの、他業種に比べて一定程度の時間外労働の上限の余裕があります。
ただし、従来どおりの配車を続ける場合、これまでにない手続き上の措置を講じる必要が出てきます。これを怠ると36協定自体が無効となり、違法な時間外労働となるため、十分な注意が必要です。
●以下3つが変わります!
36協定届の様式が変わる
時間外労働の上限規制が変わる
改善基準告示の拘束時間が変わる
【目次】下記クリックすればジャンプします
上限規制前の36協定の書式は、ドライバー職は「様式9号の4」、ドライバー以外の職種は「様式9号」または「様式9号の2」となります。面倒ですね、2種類も作成するのは・・・。運転手職については、限度時間の適用除外でしたから、特別条項という概念がないので、様式を使い分けていました。
2024年4月以降に36協定を締結する場合の書式は、ドライバーとかの職種に関係なく、「様式9号の3の4」または、「様式9号の3の5」となります。違いは、限度時間を超えて時間外労働をさせる必要があるか否かです。要するに特別条項が必要か否かということです。下記に、判断の目安を記しましたのでご参考になればと思います。
使用する様式の判断フローチャート
建設業においては、作業員・事務・営業・施工管理・設計等、職種が違っても特別条項の適用基準は一律です。業種まるごと一律に適用するということです。
しかし、トラック運送業においては業種まるごとではなく、職種別で特別条項の適用基準が違ってきます。
ザクッとですが、以下のようにトラックドライバーとそれ以外の職種で適用される基準が違ってきます。トラック運送業の36協定作成においては、
上限規制の改正内容
改善基準告示の改正内容
を理解する必要があります。
さらには、この2つの関係性も理解する必要があります。なぜならドライバー職の実質上の上限規制は、改善基準告示に依存します。これは、法改正前においても考え方は同じです。
| 規制内容 | トラック運転手 | 配車、運行管理者、整備、事務 |
限度時間 | 1日 | 上限なし(告示に依存) | 上限なし(1日に依存) |
1ヶ月 | 45時間(42時間) | 45時間(42時間) | |
1年 | 360時間(320時間) | 360時間(320時間) | |
期間 | 1日、1ヶ月、1年 | 1日、1ヶ月、1年 | |
特別条項 | 1ヶ月(休日含) | 上限なし(告示に依存) | 100時間未満 |
1年 | 960時間 | 720時間 | |
45h超回数 | 上限なし | 年6回 | |
健康措置 | 必要 | 必要 | |
罰則上限 | 月100時間未満 | 適用除外 | 適用 |
平均80時間以下 | 適用除外 | 適用 |
改正後(2024.4)の改善基準告示は、ザックリですが以下の様に変更されます。
| 法改正後(2024.4~) | 法改正前(~2024.3) |
拘束時間(1日) | ・原則13時間 ・最長15時間(長距離16時間2回まで) | ・原則13時間 ・最長16時間 |
拘束時間 (1ヶ月) | ・原則284時間 ・最長310時間(労使協定、年6回まで) ただし、284時間超は連続3回まで | ・原則293時間 ・最長320時間 (労使協定必要) |
拘束時間(1年) | ・原則3,300時間 ・最長3,400時間 | ・最長3,516時間 |
繰り返しますが、実質上の上限規制は改善基準告示に依存します。
もちろん前記の項の表に示された労働基準法上の時間数でも問題ありません。
ただトラック運送業さんによっては、荷主の特性上長時間労働(長距離、長い待機時間、荷積・荷卸等の荷役作業)による時間外労働・休日労働が多く見込まれる場合は、改善基準告示の拘束時間数の上限を意識して対応することをお勧めします。
時間数は、事業所の所定労働日数、所定労働時間、休憩時間数によって違ってきます。
改善基準告示の拘束時間は、始業時刻から終業時刻までの時間です。これには、所定労働時間、休日労働時間数、休憩時間も含まれています。逆算すれば、自ずと時間外労働(休日含む)の時間数が算出できます。
専門家等が発信しているホームページ上の記入例の時間数が、実態を捉えていないケースが散見されます。実態より低い時間数で36協定を届出し、実際その時間数を超えた場合は、労働基準法32条違反となりますので留意する必要があります。これは、トラック運送業に限らず、すべての業種で散見されます。労働基準監督署の調査でも是正勧告される項目なので、記入例の数字をそのまま使うのではなく、実態に即した時間数を確認しましょう。
政府によるテレワーク・デジタル化の推進により、2021年4月から36協定届の押印が省略可能となりました。押印省略可能ですから、従来通り押印を続けても構いません。
押印省略は原則可能ですが、「36協定届」に「36協定書」を兼ねている場合は今まで通り署名又は記名押印が必要です。協定書とは、協定の必要事項をすべて記載した書面のことです。労働基準法第36条では、36協定を締結するにあたり、労使間で書面による協定をすることを義務づけているため、届出とは別に協定書も作成する必要があります。
ただ、協定書と協定届はほぼ内容が共通しているため、協定届の控えをそのまま協定書の代わりにすることも可能です。その場合、協定書を兼ねた協定届には、これまで通り、使用者と労働者代表双方の署名・押印が必要になります。
なにが言いたいかというと、トラック運送業の36協定は必ず協定届と協定書はセット作成することです。特に以下の項目は協定届に記載するには、枠が狭すぎるからです。
・一般条項 | 時間外労働をさせる必要のある具体的事由 | |
・特別条項 | 臨時的に限度時間を超えて労働させることができる場合 |
トラック運転手においても、2024年4月以降は36協定の「限度時間の適用除外職種」から外れました。否定の否定で分かり難いですね。要するに、「①限度時間の適用を受けること」、更に「②限度時間を超える場合には特別条項の手続きがその都度必要になること」と言うことです。
この2つにおいて、具体的事由を詳細に書くことが求められます。協定届の枠内では書き切れないので、協定書に自社に状況に即した事由を出来ればそれぞれ5つ以上は記載しましょう。
延長協定の作成も忘れずに!
| 延長協定あり | 延長協定なし | |
1ヶ月の拘束時間 | 310時間 | 284時間 | |
1年の拘束時間 | 3,400時間 | 3,300時間 |
1年の拘束時間でみれば100時間増ですが、1ヶ月の拘束時間は26時間増で実務上非常に助かる措置ですね。1日基本拘束時間(13時間)の2日分ですから、繁忙期に284時間超えが見込まれる場合は、一定の制約はありますが延長協定の締結をお勧めします。
ドライバーにも、原則として残業は月45時間までに抑える、一般則の労働時間規制が適用されます。月45時間(年間360時間)以内に時間外労働が収まっていれば手続きは不要です。
しかし、月45時間を超えるときは、面倒ですが手続きが必要となります。それなりの時間外労働を見込んだ運行計画を作成しているのであれば、今後は特別条項の手続きは避けて通れない毎月の定例行事となります。
特別条項を限度時間数ギリギリに設定しているケースでは、毎月特別条項の適用を受けることになるかと思います。運転手職においては、この適用回数には制限がないので年12回、毎月適用することが可能です。
ここで気をつけたいのは、運行管理者・配車係等の内勤者については適用回数は年6回までと制限されています。運行管理者の実労働時間は、ドライバーのそれと比較的相関関係にありますので、内勤者の年6回の管理には留意する必要があります。
特別条項の手続き
・通知又は協議 | 特別条項を適用させるときは、過半数代表者に対して左記が必要 | |
・書面の保存 | 上記のやり取りを書面に残す |
労働基準監督署の調査では必ず確認される項目ですので、実務担当者は特別条項の趣旨を理解し、個人別の残業時間管理を行う必要があります。
健康確保措置は、以下9例のうち一つ以上選択して実施する必要があります。小規模のトラック運送会社を想定して、それぞれの長所(○)、短所(×)を挙げてみましょう。
内容:長時間労働を行うドライバーに対して医師による健康状態のチェックと面接指導を行う
・・・疲労や健康不良の早期発見につながり、事故を未然に防ぐことができる。
・・・医師との面接指導のためのスケジュール調整が難しく、運行計画に影響を及ぼす可能性がある
内容:深夜時間(22時~5時)帯の運転を行う回数を制限する
・・・不規則な勤務時間や過剰な労働を抑制し、ドライバーの健康を守る。
・・・緊急の配送ニーズに対応する際に柔軟な対応が失われる可能性がある。
内容:勤務間インターバルとして、十分な休息時間を確保する
・・・十分な休息が確保されることで、運転の安全性・信頼性が向上する。
・・・ スケジュール調整が必要になり、配送効率が低下する恐れがある。
内容:長時間労働を行ったドライバーに代償休日や特別休暇を付与する
・・・運転手の健康保持とモチベーションの維持に寄与する。
・・・休暇による業務の遅延や配車に支障が生じる可能性がある。
内容:ドライバーの健康状態をチェックするための健康診断を実施する
・・・病気の早期発見と予防が可能になる。
・・・健康診断の実施にはコストがかかり、小規模事業者にとっては負担増となる。
内容:ドライバーが年次有給休暇をまとめて取得することを促進する
・・・長期の休暇により、疲労の蓄積を防ぐことができる。
・・・連続休暇により配送業務の停滞が生じる可能性がある。
内容:ドライバーが心身の健康問題について相談できる窓口を設置する
・・・メンタルヘルスを含めた健康問題の相談が気軽にでき、早期対応が可能になる。
・・・相談窓口の運営には専門的な知識が必要であり、小規模事業者にとっては運営が困難。
内容:運転手の健康状態や勤務状況に応じて、適切な部署への配置転換を検討する
・・・健康を個別考慮した労働環境の提供が可能になる。
・・・適切な代替人員の確保が課題となる。そもそも、配置転換できる配属先が存在しない。
内容:必要に応じて産業医等の専門家から助言や指導を受ける
・・・専門的な知見による健康管理が可能になり、長期的な健康維持に寄与する。
・・・産業医等の専門家の確保にはコストがかかり、小規模事業者にとっては負担となる。
以上が健康確保措置9つの事例です。限度時間が超えた場合は、上記のいずれかの措置を実施して、その記録を保存しておく必要があります。
【中国地方】-山口県、広島県、岡山県、島根県、鳥取県
【九州地方】-福岡県、大分県、熊本県、長崎県、佐賀県、鹿児島県、宮崎県、沖縄県
【四国地方】-愛媛県、香川県、高知県、徳島県
※ただし、下記の業務は全国対応が可能です。
【労働トラブル対応・解決業務】
【トラック運送業の賃金制度】
【就業規則の作成・変更・見直し】
【労務監査(M&A合併を含む)】