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(働き方改革、ドライバーへの対応、改善基準告示の改正)
2019年、一部の業界または一部の職種を除いて働き方改革関連法が施行されました。最大の政策目的は、長時間労働の抑制です。法定労働時間の変更はありませんが、時間外労働(休日労働を含む)の時間数に制限が設けられました。いわゆる残業時間の上限規制です。
上限規制は法改正前からあるにはあったのですが、大臣告示レベルで法的強制力としては弱かったので、上限規制の根拠を「告示レベル」から「法律レベル」に格上げし、更に実質青天井であった特別条項の時間数に上限規制を設けました。
物流2024年問題とは、労務管理の視点で、ひとことで言うと、
「自動車運転手は様々な事情から、残業時間上限規制の適用除外の恩恵を受けてきたが、その特別扱いが2024年4月からなくなる。また遠くない時期に更なる規制も・・」
こんな感じでしょうか。
2024年問題とは、トラック乗務員に対しての特別扱いである「残業時間の上限規制の猶予」が無くなることです。また、見落としてはいけないのが「改善基準告示」の見直しも並行して進められました。働き方改革は規制の強化ですから、当然、改善基準告示もトラック運送業にとっては厳しい内容となりました。
ここで、働き方改革関連法、改善基準告示、その他労働法関連改正のスケジュールを確認してみましょう。
施行時期 | 働き方改革関連法 | 改善基準告示、労働基準法&その他 |
2019.4 | 有給休暇制度の時季指定義務 |
|
2019.4 | 労働時間把握義務化 | |
2020.4 | 残業時間の上限規制(一般業種) | |
2020.4 | 賃金債権の請求5年へ延長(未払い残業代請求増加) | |
2021.4 | 同一労働同一賃金 | |
2022.4 | パワハラ対策法制化(研修の実施、相談窓口) | |
2022.4 | 育児休業制度の個別の周知&取得意向確認義務化 | |
2023.4 | 割増賃金率のアップ(60h越え:25%→50%) | |
2024.4 | 残業時間の上限規制(運転手) ~トラック運転手にも適用~ | 改善基準告示の改正 ~左記の上限規制に連動して規制強化~ |
如何でしょうか。
2019年4月にスタートした働き方改革関連法ですが、その他の労働法も並行して改正されています。この表に取り上げたのは、企業に大きな影響を及ぼす重要法案だけですので、それ以外の改正案は含めていません。
「育児休業制度の個別周知&取得意向の確認義務化」は、男性社員の比率が多いトラック運輸業には、大きな影響が出ると思われます。今回の育休改正は、労使間の労働契約にかなり踏み込んだ内容になっています。男性社員の育休取得率の向上が最大の政策目的ですから、物流・運輸業にとっては物流2024年問題とは違った大きな課題となりそうです。
物流2024年問題は、どこの誰かが言い始めたかは定かではありませんが、トラック運転手に猶予されていた「残業時間上限規制」が解除されることで、トラック運送業に大きな問題が生じるであろう、とざっくりですが、そう言うことでしょうか。
ここでは、2019年4月から2024年4月までの重要な法改正について解説します。
【目次】下記クリックすればジャンプします
残業時間の上限規制がトラック運転手へ適用 | 2024年4月 | |
2024年4月 | ||
割増賃金率のアップ(60時間超え:25%→50%へ) | 2023年4月 | |
未払い残業代請求期間、5年へ延長 | 2020年4月 | |
同一労働同一賃金(非正規ドライバーの処遇) | 2021年4月 | |
有給休暇の取得義務 | 2019年4月 |
2019年4月からスタートした働き方改革関連法の目玉政策である「残業時間の上限規制」がトラックドライバーにもされました。自動車運転手については、政策的にも特別扱い(適用除外)されてきましたが、昨今の長時間労働によるメンタル不調(うつ病等の精神疾患)、過労死問題等を受け、いつまでも優遇措置を受けられなくなり、上限規制の対象職種となりました。
| 猶予期間中の取扱い(2024.3まで) | 猶予後の取扱い(2024.4~) |
トラック運転手 | 上限規制は適用されません。 ・特別条項付き36協定は不要 ・労基法上の残業時間の上限はない ✔月間の残業時間の規制はない ✔年間の残業時間の規制はない 実質上青天井で残業可能。但し、改善基準告示で事実上の上限規制はある。 | 上限規制が適用されます。 ・特別条項付き36協定は必要 ・労基法上の残業時間の上限がある ✔月間の残業時間の規制はない ✔年間の残業時間の規制はある 最大の変更点は、時間外労働が月45時間、年間360時間を超えるような状況であれば、「特別条項付き36協定」の締結が必要となります。 ✔年間960時間が上限時間となります ✔月100時間未満 ✔2~6ヶ月平均80時間以下 上記下2つの月間規制は適用されない ✔月45時間を超える残業の回数については制限はない。 ✔ただし将来的には一般業種向けの ↓↓↓ |
2019.4~ | ||
一般業種 | ●一般則 上限規制が適用されます。 ・特別条項付き36協定は必要 ・労基法上の残業時間の上限がある ✔月間の残業時間の規制はある (1)月100時間未満 (2)2~6ヶ月平均80時間以内 上記2つは厳守する必要がある。この数字は、休日労働時間数を含める ✔年間の残業時間の規制はある 年間720時間以内。 ✔月45時間を超える残業の回数は、年6回までに制限。 |
2024年3月までは、「改善基準告示」により実質上の上限が規制されていたが、2024年4月以降は、更に「労働基準法」で規制されることになった。どちらも手強い規制で改善基準告示違反は、事業停止、営業取消し等の行政処分を受ける。いっぽう労働基準法違反は厳しいケースでは、刑事処分を受けることになる。
また改善基準告示の改正も同時期に実施され、トラック乗務員にとっては規制強化になるものと思慮される。
遠くない将来、厚労省としては最終的に「一般則」の適用も視野に入れているようであるが、トラック運送業にとっては相当ハードルが高いものと思慮される。月ごとあるいは複数月平均の残業規制、特別条項付き36協定の発動回数の制限(年間6回)は、一般業種にとってもハードルが高く、リアルタイムの労務管理が要求されるからである。
「月の勤怠を締めて、集計したら残業時間数を超えていた」では、2024年4月以降は「完全にアウト」である。リアルタイムの労務管理とは、まさにそう言うことであり、トラック運転手には精度の高い勤怠管理の構築が早急に求められている。
これは、単にデジタコ、勤怠管理システムの導入では解決できるものではなく、トラック運転手の労働時間管理を仕組み化する必要がある。出社、出庫から帰庫、退社までに、整備、点呼、運転、手待ち、荷待ち、荷積み・荷下ろし、休憩、洗車、日報の作成等、さまざまな時間帯があるが、機械・システムが自動的に振り分けてくれる訳ではない。運行管理者、ドライバーの教育も必要になってくる。
残業時間の上限規制の見直しと並行して「改善基準告示」の見直しも行われた。これは、働き方改革関連法の国会附帯決議を踏まえ、過労死・事故防止等の観点から拘束時間、休息期間、連続運転時間等の改善について見直しが必要との判断からです。
以下の表が見直しのスケジュールを時系列にまとめています。
(労働政策審議会労働条件分科会-トラック作業部会より引用)
時 期 | 内 容(案) |
2020.8 | 第3回「労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会」(以下「専門委員会」) |
2020.9 | 第4回専門委員会 |
2020.10~12 | 実態調査実施(通信調査、ヒアリング調査) |
2021.3 | 第5回専門委員会(実態調査の結果報告) |
2021.4~11 | ・専門委員会で改善基準告示の見直しの素案を検討 ・業態ごとの検討会(設置予定)で検討 → 検討結果をとりまとめ、労働条件分科会に報告 |
2021.12 | 告示改正 |
2022.1 | 告示周知、施行準備 |
2022.6.14 | 第6回トラック作業部会 |
2022.7.20 | 第7回トラック作業部会 |
2022.8.18 | 第8回トラック作業部会 |
2022.9.2 | 第9回トラック作業部会 |
2022.9.8 | 第10回トラック作業部会 |
2022.12.23 | 改正-改善基準告示の公布 |
2022.4~2024.3 | 告示周知、施行準備 |
2024.4 | 新改善基準告示の施行 |
トラック作業部会では、長距離運行と近距離運行といった運行内容、都市と地方といった地域格差等の実態を把握した上での見直しが重要であると意見を述べています。
拘束時間 | ・働き方改革関連法の施行を踏まえどうあるべきか |
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休息期間 | ・拘束時間の議論を踏まえどうあるべきか ・インターバル規制との関係 |
連続運転時間 | ・安全性を確保しつつ、生産性向上に資するための見直し |
その他 | ・年960 時間の猶予期間終了後のさらなる改善 |
(厚労省-作業部会資料より)
現 行 | 主な意見(労働者、使用者代表委員) |
---|---|
●1ヶ月の拘束時間:293h ●1年の拘束時間 :3,516h | ・「1年の拘束時間」は、一般則の時間外720H を念頭に3,300hとすべきである。(労) ・「1ヶ月の拘束時間」は、3,300h を12ヶ月で割って275Hhで如何か。(労) ・1か月の拘束時間は、293時間を維持し、年3,408時間を超えない範囲で、年6回を限度に320時間まで延長するよう見直してはどうか。年960時間の上限規制に休日労働は含まれないので、月1回の休日労働を前提とすると、年の拘束時間は3,408時間が妥当と考える(1日9時間 × 12か月=108時間)(使) |
●労使協定による延長 ⇒ 年3,516hの範囲で年6回まで320h | ・「1年の拘束時間」は、一般則の時間外720h を念頭に3,300h とすべき。時間外 960h に休日上乗せでは現行と変わらない。(労) そもそも、改善基準告示の拘束時間は、時間外労働だけでなく、休日込みの時間で計算している。その考え方を変えるべきではない。 |
●1日の休息期間:8h | ・「1日の休息期間」は、ILO 勧告を踏まえ11h を目指すべきである。(労) ・会社が調整できるよう、休息期間は2日平均の基準にしてはどうか(使) |
●1日の拘束時間:13h 1日の最大拘束時間:16h | ・「1日の休息期間」を11h に見直すのであれば、「1日の拘束時間」は最大13h となる。 ・宿泊を伴う運行は、1日の最大拘束時間を18時間とし、休息期間を11時間と設定する等、運行実態に応じてメリハリをつけた見直しの検討も必要と考える(使) |
●1日の拘束時間の延長 ⇒15h越は、週2回まで | ・省略 |
●運転時間 2日平均:9h 2週平均:44h/週 | ・天候や渋滞の影響で超過する場合については、柔軟な運用として取り扱ってもいいのではないか。 ・拘束時間や休息期間を定めるのであれば、 運転時間は廃止すべき(使) ・連続運転時間は、高速道路やサービスエリア等の混雑状況を踏まえると、5時間に緩和してもらいたい。ドライバーがメリハリをつけられるように運転の中断を5分に緩和するのが妥当と考える(使) |
●連続運転時間:4h | |
●休日労働:2週間に1日 | ・現状の取扱いが妥当ではないか |
●分割休息特例 | ・分割休息特例は、分割する休息の単位を2時間もしくは3時間 、合計した休息期間の時間を8時間に緩和してもらいたい。また、全勤務回数の2分の1を限度とするという制限は外して緩和してもらいたい。運転手ーを早く帰宅させるために、間の休息期間を短くして、勤務終了時刻を前倒しする方が合理的という考え方もあるのではないか(使) |
●2人乗務の特例 | ・省略 |
●フェリーの特例 | ・フェリー特例は、 駐車場で休んでいる時間も休息期間として取り扱うよう、緩和してもらいたい(使) |
トラック運転手の改善基準告示は、昭和42年2月9日に2.9通達が制定され、その後法定労働時間が週46時間、週44時間、週40時間と見直され、直近では平成9年(労働省告示第4号)に改正されています。平成9年と言えば、週40時間制度が実施された年です。
今回の見直しは27年振りとなります。改正の理由は、言うまでもなく「働き方改革関連法」が2019年4月から順次施行され、その中でも、「時間外労働の上限規制」が原則全業種に適用されたからです。例外的に、トラックドライバーについては、5年間の猶予措置が適用されましたが、2024年4月から適用対象となりました。
これまでは、改善基準告示は実質上の「上限規制」の役割を担ってきました。しかし、働き方改革関連法の施行により、その役割は、名目上の規制を実施する「労働基準法」に移ることになります。自動車運転手においては、年間960時間というざっくりの規制のなかで、休日労働は別枠という考え方は、「一般則」の考えをそのまま踏襲しています。
トラック作業部会委員からは、労働基準法の上限規制に伴って、改善基準告示の「1日の拘束時間」、「1ヶ月の拘束時間」、「1年間の拘束時間」については短縮すべき、「1日の休息期間」については延長すべきという意見が出ています。時流からすれば、反対する理由は見つかりません。
中小企業に適用される時間外労働の割増賃金率は従来25%でしたが、2023年4月からは60時間を超える場合は、25%から50%へと引き上げられます。ちなみに大企業では2010年4月から施行されています。割増賃金率を下記まとめてみました。
時間外・休日・深夜労働 | 割増賃金率 | |
(1)時間外労働 所定休日(※1) | 1ヶ月合計60時間まで | 25% |
1ヶ月合計60時間越え | 50% | |
(2)休日労働 | 法定休日(※2) | 35% |
(3)深夜労働 | 22:00~翌朝5:00 | 25%(別途加算) |
如何でしょうか。
この法律改正はシンプルで分かりやすいですよね。給与計算においてもソフトを法改正版にアップデートすれば、ソフトが自動で計算してくれます。60h越は50%割増になるので残業代コストの上昇に繋がってきます。どのくらい賃金コストが上昇するのかは、他のサイトに譲るとして、長時間労働のままであれば確実に上昇するのは間違いありません。
シンプルな法改正ですが、重要なことは上記表にある「法定休日」と「所定休日」です。今更なんですが、この2つの違いを理解されているでしょうか?
ここでは、詳細は他のサイトに譲るとして、ざっくりですが・・・
(1)法定休日
法定休日の根拠として、労働基準法35条では、
「使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない」
と規定されています。週1回は、休ませて下さいねと言うことです。ある会社は日曜日だったり、理容院であれば月曜日だったり、不動産屋は水曜日だったりと、さまざまです。法定休日を日曜日にする必要はなく、特定の曜日にする必要もありません。
(2)所定休日
所定休日には、法的根拠はありません。それで、所定休日のことを「法定外休日」と言うこともあります。所定休日は、使用者が任意で付与することができるので、付与するか否かは自由なのです。自由とは言いながら、多くの会社では、週休2日制を設けたりしています。
これには、いろんな理由がありますが、その一つとして、週40時間制度への対応があります。1日の所定労働時間が8時間で週6日勤務の場合、週48時間になってしまうので、週5日勤務とし週40時間に対応するというものです。また、週休2日制でなければ採用で不利になると言うことで制度化している会社もあります。どちらかと言うと、社長さんの想いは後者の方が強いでしょうね。
土・日休みの週休2日制のケースでは、どちらかが法定休日でもう一方が所定休日になります。それは排他的関係になります。日曜日を法定休日と規定すると、土曜日は所定休日となるのが一般的です。その逆もありです。また、法定休日が週によって変わると言うこともあります。残業代コストの節約ですね。事務方の給与計算における手間が掛かるので、弊所ではお勧めはしていません。
・・・所定休日について①
所定休日に出勤した労働時間は、時間外労働の取扱いになるので上記表の(1※)の項目に分類されます。休日出勤ではあるが週40時間越えの時間外労働となり、残業代の計算においては、日々の時間外労働と合算して計算することになります。日々の残業もそこそこあり、所定休日出勤も数回あれば60時間を越えることもあるので注意する必要があります。
・・・所定休日について②
所定休日に出勤した労働時間は、「残業時間の上限規制:960時間」にカウントされるので総労働時間の管理が必要です。日々の残業がそこそこあり、所定休日出勤も数回あれば960時間を超えることもあるので注意が必要です。
・・・法定休日について(上記表の2※の項目に分類)
法定休日は、固定することを推奨しています。その場合、重要なのはどの曜日にするかです。多くの企業が日曜日だから、うちの会社も日曜日にするっていう考えは、ちょっと浅はかです。固定することは、もちろん戦略上の意味があります。少し大袈裟かもしれませんが、とても重要なのです。
拘束時間が長く、休日もなかなか取れない自動車運転手の場合、年間上限規制の960時間は、非常に気になるところです。超えてしまえば、労働基準法違反になります。また、改善基準告示改正との関係もありますが、厳しい行政処分を受ける可能性もあります。この960時間の中身は、「日々の残業時間数」と「所定休日出勤の時間数」の合算となります。
それでは、法定休日はどの曜日にするのが得策かと言いますと、それは各企業の実情に応じて違ってきます。勤務実態の現状把握・分析をした結果、A社においては「水曜日」、B社においては「月曜日」がベターと言うこともあるでしょう。
ちなみに弊所では、1年間の各ドライバーの勤務実績をすべて分析して、候補を挙げ、最終的に社長さんに決定してもらっています。
民法166条(債権等の消滅時効)の改正に伴い、労働基準法115条(時効)も改正されました。その内容は、ズバリ「未払い残業代の請求期間が5年になった」ということです。経過措置として当分のあいだ「5年が3年」とされましたが、2025年頃には経過措置が終了するのではないかと言われてます。未払い残業が発生するプロセスですが、まずは残業代計算のプロセスを知る必要あります。以下は、時間外労働算出の計算式です。
残業代の計算式は、上記表のように主に4つのプロセスから構成されます。言い換えれば、未払い残業代は、この4つの何れかもしくは全てに間違い(違法状態)があることになります。
①基準内給与 | 基本給、全ての手当(除外できる手当があるが、拡大解釈に留意) |
②月平均所定労働時間 | 就業規則本則の所定労働時間、所定休日との整合性確認 |
③割増賃金率 | 0.25、0.35、0.50、0.60(固定給部分、歩合給部分にそれぞれ) |
④残業時間数 | 1日8時間超え、週40時間超え、の2つの管理が必要 |
一番多い間違いは、④残業時間数です。間違いというより、残業時間管理していないっていった方が的確かもしれません。故意なのか、過失なのかは、各社それぞれでしょう
どちらにしても、ここが争点の場合のダメージは大きくなります。
下記に、残業代請求期間が3年、5年へと延長された場合のシミュレーションをざっくりですが、参考までに計算してみました。
前提条件
・月給 → 240,000円
・所定労働時間→ 160時間/月
・未払残業時間→ 40時間/月
・残業時間単価→ 1,875円/時間
消滅時効の期間 | 計算プロセス | 未払い残業代 |
2年 | (240,000円÷160h)×1.25×40h×24月 | 180万円 |
3年 | (240,000円÷160h)×1.25×40h×36月 | 270万円 |
5年 | (240,000円÷160h)×1.25×40h×60月 | 450万円 |
如何でしょうか。これは一人分の金額になります。
1ヶ月40時間ほどの残業時間でのシミュレーションです。まったく残業時間管理していなかった場合はさらに金額は膨らみ、倍々ゲームじゃないですが、あり得ない話ではないです。さらに対象人数が多いと数千万円レベルになることも覚悟する必要があります。
未払い残業代請求できる期間は、労働基準法の本則において5年と記載されました。これをマーケットとするプロフェッショナル事業者(弁護士、司法書士、合同労組、ユニオン)からすれば画期的法改正ではないでしょうか。従来の2.5倍の報酬を請求できる訳ですから。
過払い金訴訟も、最高裁判決によりマーケットが急拡大したのは周知の事実です。これと同じ現象が起こるかは分かりませんが、丸腰の状態では「言い値の請求額」に抗弁(反論)することは難しいでしょう。
以下では、各項目に内在する「リスク」をポイント解説します。
(1)基準内給与
この項目で一番多い法違反は、基本給のみとしているパターンです。基準内給与が基本給のみであれば問題ないのですが、他に手当がある場合には留意する必要があります。原則すべての手当が対象となりますが、労働基準法・施行規則において、除外できる手当を限定して列挙しています。
【除外できる手当】
家族手当 | 扶養家族の種類、人数に応じて支給する場合は、除外できる。しかし、家族の種類・人数に関係なく一律定額支給の場合は、除外できない。 |
通勤手当 | 通勤距離に応じて支給する場合は、除外できる。しかし、通勤距離にかかわらず、一律定額支給の場合は、除外できない。 |
住宅手当 | 住宅コストを補助する趣旨の手当です。賃貸費用の補助、住宅ローン返済額の補助等が該当する。一律定額支給の場合は、除外できない。 |
臨時の賃金 | 臨時的、突発的に支払われたもの。支給自由の発生が未確定であり、かつ非常に稀に発生するものをいう。(S22.9.13基発第17号) |
子女教育手当 | 省略 |
別居手当 | 省略 |
1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金・・・例えば、賞与 |
(2)月平均所定労働時間
この項目での間違いの多くは、実際の数字より大きい所定労働時間になっているパターンです。原則週40時間制、1ヶ月変形労働時間制、1年変形労働時間制等、自社ではどの労働時間制度を採用しているのかを確認する必要があります。
月によって暦日数が違い、月間の所定労働時間数にバラツキが出てくるのが普通だと思いますが、その場合は年平均で算出すれば問題ありません。実務上は、年平均を採用しないと手間がかかり現実的ではありません。
週40時間制のもとでは、最大173時間(小数点以下は無視しています)
たまに、200時間とか散見しますがアウトです。
(3)割増賃金率
日々の残業であれば25%でシンプルなんですが、休日出勤の取扱いが少しややこしいですね。その出勤が、所定休日出勤なのか、法定休日出勤なのかを理解する必要があります(考え方は、この前項をご参照ください)。
自社において、休日労働の種類分けが重要になります。どう言う場合が25%割増、35%割増になるのかをあらかじめ決めた方が、給与計算するうえではシンプルになり良いかと思います。
(4)残業時間数
未払い残業代が多額になる最大の要因です。ここの対策をしっかりと講じていれば請求額が高額化しないといっても過言ではないと思います。その対策とは、ズバリ「労働時間管理」です。なにも奇策ではないんです。労働基準法-ガイドラインで定められた内容を自社に適した方法で実施するだけです。
労働時間管理には、2つのプロセスがあります。それは、「把握」と「承認」です。把握が前工程、承認が後工程になるでしょう。
●把握
「始業時刻」と「終業時刻」を把握する必要があります。いつ業務を開始して、いつ業務を終了したかです。いわゆる「拘束時間」の把握ですね。ここが、スタートラインになります。ここが、しっかりしていないと後工程の「承認」には進めません。把握ですが、以下のような方法があげられます。
デジタコ
タイムカード
クラウド型勤怠管理システム(キングオブタイム等)
運転日報
これらを複合的に活用しているトラック運輸業が結構多いように思います。運送形態、運行距離、社内体制等、自社に適した方法を選択することが重要です。
●承認
正確な拘束時間の把握ができていることが前提条件となります。この時間が曖昧のままであれば、承認はあまり意味をなさないからです。把握あっての承認です。
承認は簡単にいうと、拘束時間のうち、「労働時間」と労働時間でない「不活動時間」に分けることをいいます。目的は実労働時間数の把握なので計算式で示すと
労働時間 = 拘束時間 - 不活動時間
となります。どうでしょうか。不活動時間が何なのかが分かれば、自ずと労働時間が算出できますよね。まぁ、この不活動時間がくせ者なんですが・・・
「同一労働同一賃金」問題については、なぜかトラック運送業の訴訟が多いですね!
ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件、日本郵便事件では、最高裁まで争われました。このうち、長澤運輸は運転手60数名(訴訟時)の中小企業、残り二社は東証一部上場企業です。会社規模に限らず全国各地で裁判が起こされています。
これには、仕事内容が「物の運搬」という事情もあるんではないかと思われます。
「正社員」と、「非正規社員」の仕事内容に大きな差が出来にくい業務の性質が、要因の一つとして考えられます。
例えば、「食料品」の輸送でも温度管理・品質管理が求められる「高級鮮魚の輸送」と厳重な管理まで求められない「加工魚の輸送」では、一般的には求められる仕事のスキルは違ってきますので、賃金に差異があっても問題ないと考えます。高級魚の輸送を正社員、加工魚の輸送を契約社員が担い、正社員の方が給料が高いのは何ら問題ないということです。
問題になってくるのが、例えば「加工魚の輸送」を正社員、非正規社員ともに従事する場合です。正規、非正規とも、求められるスキルは同じです。このケースで、正社員の方が給料が高いのが、「均衡待遇」「均等待遇」の観点から「説明がつく」か?ということです。ざっくりですが、「同一労働同一賃金」とはこんな感じなんです。
さて、同一労働同一賃金の当事者になるのは、誰と誰なんでしょう?
如何でしょうか。
トラック運送業では、「正社員 VS 有期雇用労働者」を巡る紛争が多いですね。この有期雇用労働者も2種類に分けて考えます。一つが「契約社員」で、もう一つが「定年後の嘱託社員」です。どちらも期間を定めた有期契約には違いがありませんが、特徴的なのは前者が「働き盛りの年齢層」、後者が「高齢者層」です。
「正社員と契約社員の待遇差」を争ったのがハマキョウレックス事件、いっぽう「正社員と嘱託社員の待遇差」を争ったのが長澤運輸事件です。背景、経緯等のバックグランドが違うので一概には言えないのですが、ハマキョウレックス事件では会社に厳しめの判決、長澤運輸事件では会社に理解ある判決が出ています。
物流会社「ハマキョウレックス」の契約社員の運転手が「住宅手当、皆勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当などが正社員にのみ支給されるのは不当だ」と訴えた裁判。
これまでに待遇格差が不合理と判断された「通勤手当」などの4つの手当に加え、皆勤手当においても、正社員に支給しながら契約社員に支給しないのは「不合理」と判断した。
一方、住宅手当については、正社員と契約社員の間に転勤の有無など差があることを踏まえ、契約社員に支給しないのは「不合理といえない」と原告の訴えを退けた。
如何でしょうか。
まとめると以下のようになります。
住宅手当 | 会社の主張が認められた。 |
皆勤手当 | 会社の主張が退けられた。 |
無事故手当 | 会社の主張が退けられた。 |
作業手当 | 会社の主張が退けられた。 |
給食手当 | 会社の主張が退けられた。 |
通勤手当 | 会社の主張が退けられた。 |
運送会社「長澤運輸」を定年後に再雇用(嘱託社員)されたドライバー3人が、「定年前と仕事内容が変わっていない(同じ仕事)のに給与が引き下げられたのは不当だ」と訴えた裁判。
正規社員と非正規社員の賃金格差が不合理かどうかは、「賃金総額の比較のみではなく、賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」とする判断を示した。精勤手当については「相違は不合理である」と支払いを命じたが、その他の基本給や大半の手当については、3人に近く年金が支給される事情(その他の事情を考慮)などを踏まえ、待遇格差は「不合理ではない」として請求を退けた。
如何でしょうか。
まとめると以下のようになります。
歩合給 | 会社の主張が認められた。 |
職務給 | 会社の主張が認められた。 |
住宅手当 | 会社の主張が認められた。 |
家族手当 | 会社の主張が認められた。 |
役職手当 | 会社の主張が認められた。 |
精勤手当 | 会社の主張が退けられた。 |
賞 与 | 会社の主張が認められた。 |
超過手当 | 会社の主張が退けられた。 |
同一労働同一賃金は非常に分かりにくいですね!(超難解のレベルです)
裁判所でも下級審の判決が上級審、さらには最高裁でひっくり返ったりしています根拠法である「パート・有期雇用労働法」、「ガイドライン」の分かりにくさもありますが、私は別のところにも要因があるんではないかと考えています。
それは、判断の基準が「定性的」であるということです。どこまでが「セーフ」で、またどこからが「アウト」になるのかがハッキリと線引きできない(白黒付けられない)ことが、予測可能性を阻害しているんではないでしょうか。
同じようなことが、「パワハラ防止法:通称」にも当てはまります。どこまでが「セーフ:適正な指導」で、またどこからが「アウト:違法な指導」になるのか、やはりハッキリと線引きできません。
いっぽう、労働基準法は「定量的」規制も結構あり、「有給休暇5日以上の取得義務」、「36協定の週45時間以内、年間360時間以内、特別条項付では720時間」など、数字において規制の上限、下限を示しているので分かりやすいです。
予測可能性が比較的容易ですね。
地場の中小企業におけるトラック運転手の「同一労働同一賃金」問題は、定年後再雇用の「嘱託社員」がメインになるかと考えます。中小トラック運送業で若年層の有期契約社員は、大手物流業者ほど多くないからです。
定年後再雇用後の仕事の「質」「量」「責任・権限」に変更がなければ、賃金給与等の労働条件も同じままにすることが無難です。いっぽう、賃金給与を下げたいときは、「質、量、責任・権限」のいずれかの負担を軽減することが求められます。ここを考慮しないと、紛争へと発展することになります。
有給休暇は、法改正(~2019.4)前までは、取得するか否かは社員の判断のみでOKでしたし、結果的に全く取得していなくても問題がありませんでした。これが、法改正後(2019.4~)は、社員に最低限5日を付与しないと労働基準法違反となります。
労基署もいきなり検察庁送致はしないでしょうが、違反人数が多く、指導に従わないケースでは送検もあり得ます。実際、2021年7月、東海地方の給食調理業の会社が労働者6人に対して有給休暇取得の時季指定を怠ったとして送検されています。6人のなかには、パート・アルバイトも含まれていたようです。きっかけは、社員からの労基署へのたれ込みです。さらに、この会社は「未払い賃金」についても送検されています。
有給休暇に関しては、経営者(会社)よりも社員の方が法的知識が豊富だと、弊所の労働相談の内容から伺えます。有給休暇は、「定量的」に理解できるのが、その要因の一つではないでしょうか。
入社6ヶ月で10日発生、その後1年ごとに最大20日が発生し、有効期限は2年間です。まったく取得していない社員がいたら、その持分は40日となります。その社員が退職するときは、40日の有給休暇を消化して辞めていくことが日常となっています。
すごくシンプルですよね。もちろん、パートタイマー、アルバイトにも変則的ですが、有給休暇は発生します。有給休暇については、曖昧に対応したり、知らん顔したりすることが、令和の時代になっては、もう通用しなくなりました。
会社は、5日は取得させないと労基法違反になるので、最低限5日取得させればなんとかなる的な楽観論があるでしょうが、そうは問屋が卸さないでしょう。退職するときに、余った有給休暇の消化を織り込んだ退職日を設定して退職届を提出してきます。
会社は、それに対してウルトラC的な手段を残念ながら持ち合わせていません。なんとか折り合いをつけて、本人の担当業務を切りのいいところまでお願いすることになります。労使関係が悪化しての退職であれば、業務の引き継ぎなどは一切考えていませんので、辞表提出の翌日から出勤してこないってこともあります。
有給休暇の時季指定権(社員がこの日に有給休暇を使います!)は、法的に保護された強力な権利です。労働裁判においても、会社にとって厳しい判決が出されているのが実情です。民事、刑事ともに会社に分が悪いことは明白です。
ここは、発想を転換して有給休暇と積極的に向き合うことが重要ではないでしょうか。それには、経営者も制度を最低限理解する必要があります。
有給休暇管理表の作成
2019年4月からは、年次有給休暇管理表の作成が義務化されました。なぜかと言うと「社員が基準期間内に5日取得したか否か」は、なんらかの記録がないと労働基準監督官の調査時に、確認のしようがないからです。
社員、パートタイマー、アルバイトすべて
2年分(今年発生分、昨年発生分)の把握
繰り越し
基準期間内の日数管理
有給休暇のは付与日は、入社日を基準にします。中小運送業者の場合は、中途採用が殆どでしょうから、付与日はバラバラになります。基準日統一という手法もありますが、「ダブルトラック」を理解しないと違法状態になる可能性があります。ここでは、紙面の都合上割愛します。
基準期間は1年となりますので、この間において「5日」以上取得させる必要があります。基準期間経過(次期付与日)後に、「5日」取得できていなかったでは、「アウト」です。そうならないよう、例えば基準期間内の折り返し(6ヶ月経過時点)で取得日数の確認を行うことが重要になります。
有給休暇の計画的付与のすすめ
労働基準法39条6項は、以下のように規定されています。
使用者は、当該事業場に、~省略~ 労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項から第三項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち五日を超える部分については、前項の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる。 |
有給休暇の計画的付与を規定した条文です。最近では認知度もあがり導入企業も増えつつあるようです。弊所でもトラック運送業さんには、導入支援を積極的に行っている労務施策の一つです。労使とも「win-win」になる施策はそれほど多くないので、是非とも有効に活用したいところです。導入の前提条件として、労使協定の作成が必須条件となります。以下、ポイントとなります。
労使が合意して労使協定の締結
計画的付与日を特定すること
毎年作成すること
最低限5日分は社員が自由に取得できるようにすること
計画的付与の「イメージがピンとこない」社長さんもおられるかと思いますので、弊所が推奨する身近な例を挙げると・・・
夏季休業(お盆休み)を少しだけ長めにとる
年末年始休業を少しだけ長めにとる
5月の連休(GW)を少しだけ長めにとる
ポイントは、「少しだけ長め」です。
従来の休日扱いとしていた「お盆休み、年末年始休み」に有給休暇を充てるのは、「民事上の不利益変更」になりますのでお勧めしていません。従来の休日を少しだけ長くしてあげるのです。
例えば、従来のお盆休みが「8月13日から8月15日の3日間」だったのを計画的付与で有給休暇を2日間活用して、「8月12日から8月16日の5日間」と「少しだけ長め」にするのです。この計画的付与で取得した有給休暇は、「5日の取得義務」にカウントされるので一石二鳥的な対応が可能となります。
【中国地方】-山口県、広島県、岡山県、島根県、鳥取県
【九州地方】-福岡県、大分県、熊本県、長崎県、佐賀県、鹿児島県、宮崎県、沖縄県
【四国地方】-愛媛県、香川県、高知県、徳島県
※ただし、下記の業務は全国対応が可能です。
【労働トラブル対応・解決業務】
【トラック運送業の賃金制度】
【就業規則の作成・変更・見直し】
【労務監査(M&A合併を含む)】