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トラック運送業、物流業、トラックドライバー、自動車運転手
2022年9月8日に開催された労政審トラック作業部会において、改善基準告示の改正案が出され、12月23日に公布されました。厚労省では改正に伴い、通達・Q&Aが作成されました。また、時間外労働の上限規制と同時期に施行されますので、改正労働基準法もしっかり理解する必要があります。
トラック運転手の場合、年間の残業時間の規制はありますが、月間の規制、一日の規制は規定されていません。それを改善基準告示で補っています。つまり、実質上の上限規制は、改善基準告示がその役割を担っていることになります。
今回の改正で気になった点があります。
・・・より複雑化した
・・・「例外」と「労使協定による例外」が混在
・・・努力義務が随所に盛り込まれた
努力義務違反をした場合、行政(労働基準監督署、運輸支局)がどのような対応をするのかが興味あるところです。口頭での指導なのか、文書による是正勧告もしくは指導票なのか・・・。事故を起こした時の運行実態が明確な法律違反ではなく、努力義務違反だった場合は、どのように評価されるのか。
義務 | 「○○しなければならない」、「○○してはならない」法的拘束力あり。 刑事罰、行政罰の対象となる。 |
配慮義務 | 一定程度の裁量は認められるものの、実施に向けた行動をするなど「何らかの配慮を行った結果」を出す必要がある。法的拘束力なし。罰則なし。 |
努力義務 | 実施することが望ましいものの、現実に実施した結果までは要求されるものではない。法的拘束力なし。罰則なし。ただし・・・ |
努力義務の評価が実務で取り上げられるのは、「事故時」と「長時間労働(過労)による心身の不調者」ではないでしょうか。とくに民事損害賠償の訴訟レベルになると、努力義務違反は運送会社には不利に働くでしょう。
労政審から提示された資料をもとに実務に重要なものについて、順を追って概説します。
【目次】下記クリックすればジャンプします
現行制度(~2024.4) | 改正後(2024.4~) |
●原則 1ヶ月の拘束時間については293時間を超えないものとする。
●労使協定による例外 労使協定により、年間6か月までは、 年間の総拘束時間が3,516時間を超えない範囲内において、1か月の拘束時間を320時間まで延長することができる。 | ●原則 拘束時間は、年間の総拘束時間が3,300時間 、かつ、1か月の拘束時間が284時間を超えないものとする。
●労使協定による例外 労使協定により、年間6か月までは 、年間の総拘束時間が3,400時間を超えない範囲内において、1か月の拘束時間を310時間まで延長することができるものとする。 この場合において、1か月の拘束時間が284時間を超える月が3か月を超えて連続しないものとし、1か月の時間外・休日労働時間数が100時間未満となるよう努めるものとする。
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「原則」、「労使協定による例外」ともに拘束時間の削減が行われました。トラック作業部会の審議の途中経過を辿ると労使折衷案の思惑が色濃く感じられる内容です。経営者側からすれば、荷主(特に着荷主)の積極的な協力なしには達成できないと言うのが本音ではないでしょうか。
改正案では、1ヶ月の拘束時間が284時間となりましたが、年間の総拘束時間は単純に「284時間×12ヶ月」とはなりません。電卓を叩いてもらえれば分かりますが、3,408時間となります。原則の3,300時間を超えてしまいます。
現行制度では、「293時間×12ヶ月」で3,516時間となり、これが年間の総拘束時間となります。分かりやすいですね。
284時間よりは、「3,300時間÷12ヶ月」の275時間をベースに労働時間管理を行った方が精神衛生上よさそうですね。284時間、310時間は、あくまでも例外として取り扱った方がバッファー(余裕)ができ、融通も効きますね。と言うより、バッファーを残しておかないと、告示違反、労基法違反になり厳しいペナルティを受ける可能性があります。
現行制度(~2024.4) | 改正後(2024.4~) |
●原則 1日(始業時刻から起算して24時間をいう 。以下同じ)についての拘束時間は、13時間を超えないものとする。 ただし、拘束時間を延長する場合であっても、1日についての拘束時間の限度(最大拘束時間)は16時間とする。この場合において、1日についての拘束時間が15時間を超える回数は、1週間について2回以内とする 。 | ●原則 1日(始業時刻から起算して24時間をいう 。以下同じ。)についての拘束時間は、 13時間を超えないものとし、当該拘束時間を延長する場合であっても、1日についての拘束時間の限度(以下「最大拘束時間」という。)は15時間とする 。
●例外 自動車運転者の1週間における運行が全て長距離貨物運送であり、かつ、一運行における休息期間が住所地以外の場所におけるものである場合 、当該1週間について2回に限り最大拘束時間を16時間とすることができる。 ※通達において1週間について2回以内 |
「原則」の13時間は変わりませんが、最大拘束時間が16時間から15時間へと短縮され、それに伴って14時間を超える回数を1週間について2回以内に努めるものとされました。1時間の短縮ですが、月の稼働日を考えれば運行計画作成に影響がありそうです。
例外として、長距離貨物運送(※)の形態では従来の最大拘束時間16時間(休息期間8時間)が1週について2回まで許容されます。ただし、1日の時間が延長されても1ヶ月の拘束時間、1年の総拘束時間がそのまま延長される訳ではないので留意する必要があります。
また、休息期間が9時間を下回る場合には運行終了後、継続12時間の休息期間を設けることが必要となります。この例外規定はトータルでみるとプラマイゼロの感もありますが、ドライバーの疲労回復という点では踏み込んだ内容と言えそうです
※1 長距離貨物運送の定義
一の運行(※2)の走行距離が450キロメートル以上の貨物運送
※2 一の運行の定義
トラック運転者が所属する事業場を出発してから当該事業場に帰着するまでをいう。
現行制度(~2024.4) | 改正後(2024.4~) |
●原則 勤務終了後、継続8時間以上の休息期間を与える。 | ●原則 休息期間は、勤務終了後、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らないものとする。
●例外 ただし、自動車運転者の1週間における運行がすべて長距離貨物運送であり、かつ、一の運行における休息期間が住所地以外の場所におけるものである場合 、当該1週間について2回に限り、継続8時間以上とすることができる。この場合において、一の運行終了後、継続12時間以上の休息期間を与えるものとする。
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休息期間が1時間延長されたのに伴い、拘束時間が1時間短縮されました。このように休息期間と1日の拘束時間は表裏一体の関係にあります。原則は9時間と、
1時間延長されましたが、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とする。
ここでも、努力義務が規定されています。さら踏み込んで、「11時間の休息期間が確保できるよう努力することが基本」と規定しています。基本ということですから原則と読み替えても文意は変わらないでしょう。「努力義務」としながら、「義務」に近いニュアンスですね。
EU(欧州連合)では、休息期間にあたる勤務間インターバルを11時間以上与える必要(義務です)があります。日本では、自動車運転手以外は努力義務ですが、厚労省は9時間から11時間の勤務間インターバルを推奨しています。この数字「9時間から11時間」が、改善基準告示の休息期間のベースになったのではないかと推察します。
「努力義務」は、「義務」化されるまでの猶予期間になるケースが多いですから、いずれ休息期間も11時間が義務化されると考えるのが自然の流れでしょう。
そうすると、「24時間-11時間」=13時間の拘束時間。
改正改善基準告示では、「24時間-9時間」=15時間の拘束時間。
将来的には、「13時間の拘束時間」でまわる運行計画が求められそうです。
現行制度(~2024.4) | 改正後(2024.4~) |
●運転時間 運転時間は、2日を平均し1日当たり9時間 、2週間を平均し1週間当たり44時間を 超えないものとする。
●連続運転時間 連続運転時間(1回が連続10分以上で,かつ、合計が30分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間をいう )は4時間を超えないものとする | ●運転時間(変更なし) 運転時間は、2日を平均し1日当たり9時間 、2週間を平均し1週間当たり44時間を 超えないものとする。
●連続運転時間 連続運転時間(1回が概ね連続10分以上(※)で、かつ、合計が30分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間をいう。以下同じ)は、4時間を超えないものとする。
※通達において、「概ね連続10分以上」とは 、例えば、10分未満の運転の中断が3回以上連続しないこと等を示すこととする。
【例外】 但し、 サービスエリア、パーキングエリア等に駐車又は停車できないことにより、やむを得ず連続運転時間が4時間を超える場合には、30分まで延長することができるものとする。
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「運転時間」は現行通りで変更はありません。「連続運転時間」については、「原則」と「例外」の規定に分けられ、4時間の原則は維持されましたが、やむを得ない場合には、30分の延長ができ「4時間30分の連続運転時間」が可能となりました。大きな変更点は「運転の中断」で、運行計画に大きな影響が出るでしょう。
「運行の中断」の変更点は、以下2つに分けられます。
・・・1回10分以上の取扱いの緩和
従来、連続運転4時間以内において、1回10分以上で合計30分以上の運行の中断が必要ですが、改正後は「1回が概ね連続10分以上」と規定されました。
「概ね連続10分以上」の考え方ですが、通達によると「10分未満の運行の中断が3回以上連続しないこと」とされています。1回、2回までなら「セーフ」で、3回連続なら「アウト」ということでしょうか。細かすぎますて、本当に管理できるのでしょうか?
曖昧な表現は、グレーゾーンを誘発しトラブルの種になるのは世の常です。
・・・「運転の中断」の考え方の変更
従来、「運転の中断」の定義は「運転からの離脱」とされています。したがって、荷積み・荷卸し・待機等は、この「運転の中断」中に行っても問題ありませんでした。なぜなら、運転をしていないからです。
改正後は、この定義が「原則休憩」へと変更されました。休憩ですから、「労働からの解放」が求められます。附帯作業を行うことができなくなります。
「休憩時間」を巡ってのトラブルが増加しそうです。
労働基準法で求められる「休憩時間」と改善基準告示で求められる「休憩時間」をどう管理するかがポイントになりそうですね。
現行制度(~2024.4) | 新設(2024.4~) |
規定なし | ●予期し得ない事象に遭遇した場合 ①事故、故障、災害等、通常予期し得ない事象に遭遇し、一定の遅延が生じた場合には、客観的な記録が認められる場合に限り、
✔ 1日の拘束時間 ✔ 運転時間(2日平均) ✔ 連続運転時間
上記3項目の規制の適用に当たっては、
その対応に要した時間を除くことができることとする。
②勤務終了後は、通常どおりの休息期間を与えるものとする。
●具体的な事由 ✔ 運転中に乗務している車両が予期せず故障した場合 ✔ 運転中に予期せず乗船予定のフェリーが ✔ 運転中に災害や事故の発生に伴い、道路が封鎖された場合、道路が渋滞した場合 ✔ 異常気象(警報発表時)に遭遇し、運転中に正常な運行が困難となった場合 |
現行制度(~2024.4) | 改正後(2024.4~) |
✔ 業務の必要上、勤務終了後継続8時間 以上の休息期間を与えることが困難な場合には、当分の間、一定期間における全勤務 回数の2分の1を限度に 、休息期間を拘束時間の途中及び拘束時間の経過直後に分割して与えることができるものとする 。 | ✔ 業務の必要上、勤務終了後、継続9時間以上(※)の休息期間を与えることが困難な場合には 、当分の間 、一定期間における全勤務回数の2分の1を限度に 、休息期間を拘束時間の途中及び拘束時間の経過直後に分割して与えることができるものとする。
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現行制度(~2024.4) | 改正後(2024.4~) |
●原則 自動車運転者が同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合(車両内に身体を伸ばして休息することができる設備がある場合に限る。)においては 、最大拘束時間を20時間まで延長することができる 。また、休息期間は4時間まで短縮することができる。 | ●原則 現行どおり
●例外 ただし 、 当該設備が次のいずれにも該当する車両内ベッド又はこれに準ずるもの(以下「車両内ベッド等」)であるときは、拘束時間を24時間まで延長することができる。 また、当該車両内ベッド(※)において8時間以上の仮眠時間を与える場合には、当該拘束時間を28時間まで延長することができる 。この場合において 、一の運行終了後 、継続11時間以上の休息期間を与えるものとする。
※車輌内ベッドの基準 ✔ 車両内ベッドは長さ198cm以上、かつ、幅80cm以上の連続した平面であること ✔ 車両内ベッドは、クッション材等により走行中の路面等からの衝撃が緩和されるものであること |
現行制度(~2024.4) | 改正後(2024.4~) |
✔ 2暦日における拘束時間は、21時間を超えてはならないものとする 。 この場合においても2週間における総拘束時間は126時間(21時間×6勤務)を超えることができないものとする。 | 現行どおり
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現行制度(~2024.4) | 改正後(2024.4~) |
✔ フェリー乗船時間は、原則として、休息期間として取り扱うものとする。 ただし、減算後の休息期間は、フェリー下船時刻から勤務終了時刻までの間の時間の2分の1を下回ってはならないものとする。(※1)
(※1)二人乗務の場合は除く なお、フェリー乗船時間が8時間(※2)を超える場合には、原則としてフェリー下船時刻から次の勤務が開始されるものとする 。 (※2)2人乗務の場合には4時間、隔日勤務の場合には20時間 | 現行どおり
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【中国地方】-山口県、広島県、岡山県、島根県、鳥取県
【九州地方】-福岡県、大分県、熊本県、長崎県、佐賀県、鹿児島県、宮崎県、沖縄県
【四国地方】-愛媛県、香川県、高知県、徳島県
※ただし、下記の業務は全国対応が可能です。
【労働トラブル対応・解決業務】
【トラック運送業の賃金制度】
【就業規則の作成・変更・見直し】
【労務監査(M&A合併を含む)】