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歩合・残業代請求を巡る裁判例

(トラック運送業 運転手 ドライバー 判決(裁判例、判例)

固定(定額)残業制度、歩合給の割増賃金を巡る裁判例(トラック運送業)

固定(定額)残業制度の是非

固定残業制度をめぐる判決では、小里機材事件(最高裁 昭和63年7月14日)がリーディングケースになるでしょう。

その後、様々な判決が出され、以下の要件を満たす限り、定額残業制度の有効性を認めています。このコンテンツの出典元として、株式会社ビジネスリンク代表取締役 西川幸孝氏の「賃金制度コンサルティング講座」の資料を一部使用又は加筆修正しております。(文責:赤井孝文)

  1. 通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分が明確に区分されていること
  2. 支払うべき割増賃金が、1の割増賃金額を上回る場合には、差額を支払うことが合意されていること
  3. 就業規則、賃金規程、給与規程に規定されていること
固定(定額)残業制度に対する厳しい判決

ここ数年、固定残業制度を巡る裁判で、経営者に厳しい判決(会社が敗訴)が下されています。多くの中小企業では、前記3つの要件を満たしていない『どんぶり固定残業制度』が横行していますが、司法判断を仰ぐとなると、形式的には定額残業制度の要件は最低限満たしているものと思われます。

それなのに、今、何が問題になっているのか・・・。最近の会社側が敗訴した判決(判例、裁判例)を数例ご紹介します。

テックジャパン事件(最高裁 平成24年3月8日)

判決の要旨

基本給に一定時間数の割増賃金が含まれているとする会社側の主張を否定。

通常の労働に対する賃金部分と、時間外労働に対する割増賃金部分を明確に区分することができないことがその理由。

櫻井龍子裁判官の補足意見

便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが、その場合は、その旨が雇用契約上も明確にされていなければならないと同時に支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならないであろう。

さらには10時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解すべきと思われる。

本件の場合、そのようなあらかじめの合意も支給実態も認められない。

アクティリンク事件(東京地裁 平成24年8月28日)

判決の要旨

営業手当を割増賃金30時間相当分として支払う旨の賃金規定があった事例。営業手当のように、他の手当を名目としたいわゆる定額残業代の支払が許されるためには、以下の2つの取扱いが必要と判示。

  1. 実質的に見て、当該手当が時間外労働の対価としての性格を有していること
     
  2. 支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され、定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途精算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していること

全く精算していない場合、定額残業代は無効と判断。

この場合、営業手当も基準内給与として扱われ、残業単価も増額し、さらに別途、時間外労働に応じた残業代を支払う必要がある。

運用面がルーズであると、そもそも定額残業代であると定義した営業手当自体が単なる手当の上乗せになってしまうと言う典型的なケースである。

多くの中小企業でも、実態は、ほとんどこのケースに近いと思われる。

ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件
(札幌高裁 平成24年10月19日)

判決の要旨

95時間分の定額残業代をそのまま認めず、45時間(36協定の上限時間)を限度として有効とした。

職務手当が95時間分の時間外賃金であると解釈すると、本件職務手当の受給を合意したXは95時間の時間外労働義務を負うことになるものと解されるが、このような長時間の時間外労働を義務付けることは、使用者の業務運営に配慮しながらも労働者の生活と仕事を調和させようとする労基法36条の規定を無意味なものとするばかりでなく、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するおそれさえある。

三和交通事件(札幌地裁 平成23年7月25日)

判決の要旨

タクシー乗務員の割増賃金支給をめぐる争い。

この会社の賃金制度は、基本給、歩合給、割増賃金の構成で、歩合給は営業収入から足切額を控除したものに歩合率54%を掛けて求める。

足切額は基本給と割増賃金の合計額を歩合率54%で除すものになっていたため、結果的に、受け取る賃金は営業収入に歩合率54%を掛けたものになってしまうという内容。

  • 賃金=基本給+歩合給+割増賃金
  • 歩合給=(営業収入-足切額)×歩合率(54%)
  • 足切額=(基本給+割増賃金)÷歩合率(54%)

賃金=基本給+〔営業収入-(基本給+割増賃金)÷54%〕×54%+割増賃金
営業収入×54%

裁判所は、この賃金制度は、実態としては歩合給100%のしくみであり、形式的には割増賃金が支払われていたとしても、実質的には賃金の名目の組み替えに過ぎないとして、完全歩合給制の場合の計算方法による「6号」適用による新たな割増賃金の支払いを認めた。

総支給額を歩合計算で決めておいて、それを形式的に基本給や各種手当、割増賃金などに割り振っていく方法は、トラック運送業においても多く見られる方法である。

北海道タクシー労働者支援弁護団

北海道において、弁護士グループが、労働組合と連携して、タクシー労働者の権利を、タクシー会社との交渉、法的手続(労働審判、仮処分、訴訟)によって守る活動をしている。

上記の三和交通事件(札幌地裁 平成23年7月25日)も、この弁護団が支援活動を行っている。

その他多くのタクシー会社との訴訟において、勝訴または和解が成立している。トラック運送業のトラックドライバーも、タクシー労働者と基本的に賃金が決定する仕組み(賃金制度)は同じである。他業界ではあるが、判決の内容を学ぶ価値は十分あると思われる。

固定(定額)残業制度の3つの否認リスク要因

  1. 定額残業代に対して、不足する(差額)を精算していないことによる否認リスク
     
  2. 時間外労働をしても、設定された定額残業代ですべてまかなわれてしまうため、割増率に応じて受取額が増加することがないことによる否認リスク
     
  3. そもそも労働時間管理を行っていないことにより、定額残業代の否認リスク

固定(定額)残業代方式を採用した場合、強行法規(労働基準監督署)はクリアできても、民事的なリスク(裁判における争い)は残る。
否認リスクを100%排除することは、不可能であるが、上記3つを意識した

  • 制度の設計
  • 制度の運用

を行っていれば、否認リスクの低減は確実に期待できるものであると確信しています。

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